人時生産性とは?店舗作業を見直すポイント
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2021年7月から3年連続で、多くの個人向け業種では深刻な人手不足を感じている状況です。今回は限られた人手で店舗運営する上で指標になる「人時生産性」と生産性向上のために店舗作業を見直す際のポイントについてまとめました。
人時生産性とは?各業界の目安と計算方法
人時生産性とは
人時(マンアワー/MH)=従業員1時間あたりの作業量を指す単位です。人時生産性は「従業員1名が1時間働いた際の粗利益」のことを表します。
人時生産性=粗利÷総労働時間(総人時)で計算できます。
※総労働時間は従業員全員(店長・正社員・パート・アルバイト)が働いた時間です。
人時生産性は業界ごとに異なります。2021年の中小企業庁の調査によると、以下の通りです。
- 小売業 2,444円
- 飲食店 1,902円
- 宿泊業 2,805円
参照:2021年 6月中小企業庁「中小小売業・サービス業の生産性分析」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/keieiryoku_kojo/pdf/005_04_00.pdf
一般的に人件費は大きな費用を占めており、人件費と総労働時間(総人時)は比例します。業務プロセス改善による総労働時間の削減は、人件費のコントロールで重要な要素です。
目標設定をする際は、各店に適した頑張れば実現努力達成可能な数値を目安としましょう。
人時売上高・労働生産性とのちがい
人時生産性と混同されやすいのが「人時売上高」と「労働生産性」です。
「人時売上高=売上高÷総労働時間」で計算できます。
人時売上高は業務時間中に意識しやすく、例えば飲食店では目標の人時売上高に近づけるためにもう1品メニューを提案するといったアクションにつなげられます。
一方、労働生産性とは「労働投入量1単位当たりの産出量・産出額」として表され、
「生産性=産出(生産した数や付加価値)÷投入(労働者数もしくは総労働時間)」で計算できます。
労働生産性は物的生産性と付加価値生産性の2種類あり、「産出・投入を何とするか」で様々に捉えることができます。
人時生産性が重視される背景
日本の生産年齢人口(労働の中核となる担い手であり、生産活動を支える15~64歳の人口)は減少し続け、2025年以降さらに流れが加速していきます。さらに2023年帝国データバンクの調査によると、「飲食店・各種商品小売・服飾品小売・娯楽サービス・専門商品小売等」の個人向け業種は、2021年7月から3年連続で人手不足の割合が上昇しています。
参照:2023年7月 帝国データバンク 人手不足に対する企業の動向調査
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p230804.pdf
店舗作業における人時生産性向上のポイント
粗利益・労働時間・作業内容の把握
人時生産性の計算に必要な数値は、正確にもれなく洗い出す必要があります。
特に労働時間は休出やお客様対応等であいまいになりがちです。
店舗運営のさらなる円滑化という目的に理解を得て、店舗には正しく把握する必要があります。
さらに労働時間と合わせて作業内容も同時に把握するが理想的です。生産性向上のためには業務項目を洗い出し、作業レベルに分解して洗い出す必要があります。
例えばセール準備業務と一口に言っても、シフト調整・VMD考案・商品発注・撤去と陳列・価格設定・プライスカード準備など。セール当日も翌朝の価格設定チェック・フェイスアップ作業・追加発注…と様々な作業で構成されています。業務がどんな作業で構成されているのか、本部が店舗オペレーションを見直す際の材料となります。
店舗作業の見直しとマニュアル整備
業務改善に関するフレームワークは多々ありますが、本記事では「ECRS(エクレス)の4原則」についてご紹介します。ECRSの4原則は業務効率化に必要なポイントと考え方の流れを示しています。
E→C→R→Sの順で取り組むことが推奨されています。
- ・Eliminate(不要な工程をなくす)
まず、不要な工程をなくすことを目指しましょう。最もコスト削減を期待できます。
例)毎週必ず行っていた会議を月2回に削減し、後は随時報告とする - ・Combine(同じような作業をまとめる、逆に分ける)
続いて似たような作業をまとめます。
例)商品の品出しと前出し(フェイスアップ)作業を組み合わせる - ・Rearrange(作業工程の順の入れ替える)
作業工程を交換します。
例)バックヤードの清掃時間を、店舗のピークタイム後に変更する - ・Simplify(なくせなかった工程を簡素化する)
手順を簡素化します。
例)ギフト包装しやすい包装紙や箱に変更する
作業を見直したらマニュアルを整備し、作業を標準化することが大切です。スタッフのスキル強化によりシフトを組む際の縛りが減り、柔軟な人員配置につながります。
適材適所な人員配置
日・週・月単位でピーク時に人手を厚くして販売機会ロスを減らすのが理想だが、現実はそううまくいかない…というケースも珍しくないのではないでしょうか。深刻な人手不足により“大幅な販売機会ロスが続く”もしくは“長期間サービスが行き渡っていない”等の場合は、スポットワークサービス導入を検討するのも1つです。
スポットワークとは「単発、短時間(短期間)で継続した雇用関係のない働き方」を指します。
企業がスポットワーカーに依頼する業務内容は様々ですが、例えばスポットワーカーに品出し作業をお願いし、自店スタッフには売り上げにつながりやすい接客などに人員を集中させることができます。
宿泊業界のマルチタスク化の事例も参考になります。コロナ禍で特に業界離れと人手不足が深刻な宿泊業界では「料理の配膳とフロントなど異なる部門を兼任する」事例が話題になりました。
マルチチタスク化は人手不足の解消だけではなく、従業員のスキルアップや新たな適性の発見も期待できます。担当部門を超えた配置は、業界を違えど参考になります。
店舗DX化・ITツールの活用
店舗DX化の事例は無人レジやICタグの導入といった設備面、オンライン接客やバーチャル店舗などの購入体験に関わるものまで様々です。
その中でも“情報の整備”は始めやすく、変化を感じやすい分野ではないでしょうか。
例)
- ・私用SNSや個人連絡を原則禁止、社内専用のコミュニケーションツールに置き換え
- ・新商品情報をMD部が直接店舗に発信
- ・各種マニュアルの集約・制作の省力化
- ・エリア内会議や臨店を一部リモート化し、関係者全員の移動コストを削減
まずストック情報(その場限りの情報)とフロー情報(あとから見直す情報)です。特にヘルプ要員の募集やトラブル報告などのフロー情報については、早期解決のためタイムリーさが求めます。
一方マニュアルや商品情報などのフロー情報は、見直しと定期更新の容易さが求められます。
どちらも「適切なタイミングで・必要な情報を・必要な人にだけ」に情報伝達できるかがポイントです。
加えて本部が店舗をリモートで管理する際には、店舗ごとの進捗状況を追う仕組みも必要になります。
人時生産性に焦点を当てる際の注意点
店舗の運用に沿っているか
実際に業務にあたる店舗の従業員にとって無理のない目標になるよう、まずは不要な業務の削減から始める必要があります。効率性だけを追い求めるとモチベーション低下にもつながりかねません。効率化の先に「付加価値を提供する」という目的を明確にし、従業員の創造性が発揮できる空気作りも合わせて心がけましょう。そのために店舗の従業員が前向きに意見を発信できるよう、意見を吸い上げる場を用意するのも有効です。
まとめ
人事生産性を始めとした指標と、店舗の生産性を高めるために見直すポイントについてご紹介しました。いずれも1つの指標だけが優先されるわけではなく、他の指標と共に総合的に分析に活用されます。店舗の従業員と本部が連携し、従業員が継続的な店舗力向上を目指しましょう。
皆様の参考になれば幸いです。